赴粥飯法(永平清規)

赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)


「赴粥飯法」は道元禅師が寬元4年(1246)秋頃に永平寺にて撰述したと考察される。

この「赴粥飯法」は撰述年代が書かれていなく、永平寺とあるのみ。

道元禅師が僧堂を建設したときより「僧堂粥飯作法」は衆僧達に口頭で指導されていたものと考えられるが、「赴粥飯法」はこれを文書化したものとの説が有る。

この「赴粥飯法」は僧堂における食事作法を細かく定めた規則である。
「赴粥飯法」とは「粥飯に赴く法」であり、道元禅師は「食は是れ法なり」とあるが如く、「食」は將に仏法であり、仏法の実践であると述べられている。
雲衲が僧堂で食事するとき用いられる「応量器」の作法、匙筋(箸)の作法、食前偈の作法、食事中の禁止事項、僧堂内での進退などが丁寧に「赴粥飯法」の中で記されている。
今でも、永平寺僧堂ではこの「赴粥飯法」通り厳粛に朝の粥、昼(午時)の飯の行法が、これに違うことなく執り行なわれている。

 

赴粥飯法・冠註永平元禅師清規
赴粥飯法・冠註永平元禅師清規
僧堂披位之図・冠註永平元禅師清規
僧堂披位之図・冠註永平元禅師清規

 

赴粥飯法

    永平寺

 

經に曰く、若し能く食に於て等なるは、諸法も亦、等なり。

諸法、等なるは、食に於ても亦等なりと。

方に法をして食と等なら令教(しめ)、食をして法と等なら教(し)む。

是の故に法、若し法性なれば、食も亦法性なり。

法、若し眞如なれば、食も亦眞如なり。

法若し一心なれば、食も亦一心なり。

法若し菩提なれば、食も亦菩提なり。

名等義等なり。故に等と言ふ。

經に曰く、名等義等、一切皆等、純一無雜と。

馬祖の曰く、法界を建立すれば、盡く是れ法界。

若し眞如を立すれば盡く是れ眞如。

若し理を立すれば盡く是れ理。

若し事を立すれば一切の法盡く是れ事なりと。

然あれば則ち等は、等均等量の等には非ず。正等覺の等なり。

正等覺は、本末究意等なり。

本末究意等は、唯佛與佛、乃能究盡、諸法實相なり。

所以に食は諸法の法なり。

唯佛與佛の究盡したもう所なり。

正當恁麼の時、實相性體力作因縁有り。

是れを以て法は是れ食、食は是れ法なり。

是の法は、前佛後佛の受用したもう所為(な)り。

此の食は法喜禪悦の充足したもう所なり。

粥時は開靜已後、齋時は三鼓已前、先ず食位にて就て坐す。

齋時三鼓の後、大鐘を鳴らすは齋時を報ずるなり。

城隍には先ず齋鐘、山林には先ず三鼓。

此の時、若し面壁打坐の者は、須く身を轉じ正面にて坐すべし。

若し堂外に在る者は、即ち須く務めを息め、手を洗て淨から令むべし。

當に威儀を具して堂に赴くべし。

次に版を鳴らすこと三會、大衆一時に入堂す。

入堂の間、黙然として行きて、點頭語笑することを得ざれ。

一時に入堂し、堂に在て言語説話することを得ざれ。

唯だ黙するのみ(而己)

入堂の法、合掌を面前に擎て入る。

合掌は指頭、當に鼻端に對すべし。

頭低るれば指頭も低る。

頭直ければ指頭も直し。

頭、若し少しく斜めなれば、指頭も亦少しく斜めなり。

其の腕、胸襟に近づか教(しむ)ること莫れ。

其の臂、脇下に築か教ること莫れ。

前門より入るには、上下間の者は並に南頬從り入り、

先ず左足を擧して入り、次に右足を入れて行け。

北頬並に中央從り入らざる所以は、蓋し住持人を尊崇するなり。

住持人は當に須く北頬并に中央從り入るべし。

若し中央從り入るには先ず右足を擧す、乃ち正儀なり。

聖僧前に於て問訊し訖りて、右に身を轉じて位に就く。

首座入堂の路は、雲堂の北簷頭下を經て、前門の南頬從り入る。

(後門より入るには上間牀の者は北頬從り入り、先ず左足を擧す。下間牀の者は南頬從り入り、先ず右足を擧す。聖僧の後に於て東に向かい問訊し訖て座に就く。)

粥飯の坐位は、或いは戒臘の資次に依り、或いは掛搭の前後に由り、

或いは被位の在處に依るなり。

但し、安居の間は必ず戒臘の資次に依るなり。

上牀の法は、鄰位に問訊す。

所謂、牀座に向て問訊すれば則ち上下肩を問訊するなり。

順に上肩を轉ず。(上肩は左肩なり。)

次に對座に問訊す。

先ず右手を以て左邊の衣袖を斂て、腋下に壓し定む。

復た、左手を以て右邊の衣袖を斂て、腋下に壓し定む。

然して後、兩手に面前の袈裟を提げ、次に併せて、左手を以て之を提げ、

即ち足を雙へ、次で牀近の地を蹈て、牀縁に座す。

次に弃鞋す。

次に右手を以て牀を按へ、次に左脚を縮て牀に上る。

次に右脚を收て身を擧て正座して、右脚を壓し敷く。

今云ふ、先ず右の手に牀を按へ、次に右の脚を縮て牀に上り、

次に左脚を收て身を擧て正座す。

左の脚、右䏶を壓し敷て坐すと。

次に袈裟を展て、膝上に蓋ひ、内衣を露すことを得ず。

衣を牀縁に垂ることを得ず。

須く身を退くること一鉢許地(ばかり)なるべし。

以て護淨を明かにせよ。

(一に袈裟を安じ、二に鉢盂を展へ、三に頭の向かう所、是れを三淨を名す。)

(都寺、監寺、副寺)監院、維那、典座、直歳、侍者等は堂外の上間に在て坐す。

知客、浴主、堂主、炭頭、街坊、化主等は堂外の下間に在て坐す。

次に木魚を打つ。

衆僧集定し、響き罷て到る者は入堂を許ざず。

次に厨前雲版鳴るを聞いて大衆一時に下鉢す。

下鉢の法は擧身安詳として定(じよう)より起立して、身を轉じ右に廻り掛塔單に向て合掌低頭、略問訊し訖て鉢を取る。

左手に鉢を提げ、右手に鉤を解きて、兩手に鉢を托して、太(なはな)だ高く、太だ低きを得ざれ。

胸に當て身を上肩を轉じて、曲躬し將に坐せんとして、

盋盂を上肩の背後に放(お)く。

腰背肘臂を將て、隣位を撞著することを得ざれ。

袈裟を顧視して、人の面を拂は令(しむ)ることを得ざれ。

次に此の時に當て、聖僧侍者、聖僧飯を供養す。

行者、飯盤を擎げ、侍者合掌して飯に先して歩す。

侍者、聖僧の飯を供養して後、堂面の堦下に於て問訊し訖て、

槌砧の複袱子を却(さ)る。

其の後、合掌して歩出し、正面に至て問訊、右に身を轉じ堂外に出て、

知事牀の前を經て、位に就く。

三通鼓聲、將に罷らんとするに、堂前の小鐘子鳴る。

住持人、入堂し大衆牀を下ること同じ。

住持人、聖僧を問訊し罷て、大衆と問訊し、然して後、位に就く。

住持人位に就き訖て、大衆方に牀に上る。

侍者は住持人に參随して堂外に下り挑立し、大衆の坐するを候して一時に問訊す。

然して後、侍者は棹子を入れて問訊して出ず。

住持の盋盂は此の棹上に安ず。

大衆、牀に上り弃鞋して牀下に安じ、身を擧し蒲團上に正坐して、

參差することを得ざれ。

次に盋盂を托して坐前に安ず。

次に維那入堂して聖僧前に問訊し罷て、燒香す。

燒香し罷て、聖僧前に問訊す。

問訊し罷て、然して後、合掌して槌砧の邊に到て、槌砧を問訊し罷て、槌を一下す。

或いは槌を打たずして、大衆方に展鉢す。

展鉢の法、先ず合掌し盋盂の複帕の結びを解て、鉢拭を取り、

襞疊して小ならしめよ。

小ならしむるとは、横に一半に折り、豎に三重に折て、横に頭鐼の後に安じ、

(やや)匙筋袋にを等す。

鉢拭の長さ一尺三寸なり。(布一幅なり。)

匙筋袋を鉢拭の上に放き、次に淨巾を展て、以て膝を蓋ふ。

次に複帕を開て身に向ふの一角を牀縁に垂れ、次に外に向ふ一角を裏に向けて折り、次に左右の角を裏に向けて折り、盋盂の底の邊に至らしむ。

次に兩手を以て鉢單を開く。

右の手を覆せて、身に向ふの單縁を把て、盋盂の口の上に蓋ふ。

即ち左手を以て盋盂を取り、單上の左邊に安じ、

次に兩手の頭指を以て鐼子を迸取す。

小從り次第に之れを展べ、聲を作すことを得ざれ。

坐位、稍窄きが如きは只だ三鉢を展ぶ。

次に匙筋袋を開きて、匙筋を取る。

出すには則ち筋を先にし、入るには則ち匙を先にす。

鉢刷、同じく袋裏に在り。

匙筋を横に出し、頭鐼の後へに安ず。

匙筋の頭は上肩に向ふ。

次に鉢刷を取り、縦に頭鐼と第二鐼の中間に安じ、

刷柄は外に向けて以て出生せんを待つ。

次に匙筋袋を折て小ならしめ、頭鉢の後の單の下に挿む。

或いは鉢單の後へに置く。

盋盂巾に并せて、横に安ず。

 

吉凶齋に遇ふが如きは、行香を設け罷て踞爐す。

行香の時は、擧手合掌して、語笑點頭動身することを得ざれ。

當に須く黙坐すべし。

次に維那、打槌一下して曰く、

 稽首薄伽梵、圓満修多羅、大乘菩薩僧、功徳難思議。

 今晨、修設疏有り、恭く雲堂に對して代て表を伸宣す、伏して惟れば慈證。

(宣疏罷て曰く)

 上來文疏、已に具に披宣す、聖眼私無し、諒に照鍳を垂れたまへ。

 仰で尊衆を憑んで念ず。

此の時、大衆合掌す。

維那高聲に念じて曰く、

 清淨法身毘盧舎那佛、圓満報身盧遮那佛、千百億化身釋迦牟尼佛、

 當來下生彌勒尊佛、十方三世一切諸佛、大乘玅法蓮華經、

 大聖文殊師利菩薩、大乘普賢菩薩、大悲觀世音菩薩、

 諸尊菩薩摩訶薩、摩訶般若波羅蜜。

槌を下すこと太だ疾なれば即ち佛脚を打し、

槌を下すこと太だ慢なれば即ち佛頂を打著す。

尋常の塡設に遇が如きは、即ち白槌して曰く、

 仰惟三寶咸賜印知。

更に歎佛せず。

十聲佛罷て槌を打つこと一下。首座施食す。

粥時曰く、

 粥有十利、饒益行人、果報無邊、究竟常樂。

(十利とは一には色、二には力、三には壽、四には樂、五には詞清辨、六には宿食除、七には風除、八には飢消、九には渇消、十には大小便調達、僧祇律。)

齋時曰く、

 三徳六味、施佛及僧、法界有情、普同供養

(三徳とは、一に軽軟、二に清淨、三に如法作。六味とは、一に苦、二に醋、三に甘、四に辛、五に醎、六に淡。涅槃經云云。)

首座、合掌して聲を引て唱へ、首座若し堂に赴かずんば、次座之れを唱へよ。

施食訖る。

 

行者喝食入る。喝食行者先ず前門より入る。

聖僧に向て問訊し訖り、住持人の前に向て、住持人を問訊し訖り、

首座の前に到り問訊し訖て、前門内の南頬板頭の畔りに到り、面、聖僧に向て問訊し訖て、叉手して立ち喝食す。

喝食は須く言語分明にして名目賺(あやま)らざるべし。

若し差誤有れば受食の法成せず。

須く再び喝せしむべし。

(食遍くして維那、白食槌一下し、首座揖食觀想訖らば大衆方に食す。)

維那、聖僧帳の後へより、身を轉じ首座を問訊す。

乃ち首座に施財を請するなり。

却て槌の本位に歸り槌を打つこと一下すれば、首座施財す。

曰く、

 財法二施、功德無量、檀波羅蜜、具足圓滿。

行食の法、行食太だ速なれば受者倉卒なり。

行食太だ遅なれば坐久しくして勞を成す。

行食は須く淨人手ずから行ずべし。

僧家、自ら手から食を取ることを得ざれ。

淨人行益は首座より始めて、次第して行じ、住持人に歸りて行益す。

淨人禮は低細を合し、羮粥の類、僧手及び盋盂の縁を汚すことを得ざれ。

杓を點すること三兩下し、良久して之れを行ぜよ。

曲身歛手して胸に當て行ぜよ。

粥飯多少は各僧意に隨ふ。

手を垂れて鹽醋桶子を提ることを得ざれ。

行益處に嚏噴咳嗽するが如くんば、當に須く背身すべし。

舁桶の人の法は須く如法なるべし。

受食の法は恭敬して受く。

佛の言く、恭敬して食を受けよ、應に學すべしと。

若し食、未だ至らざるに豫じめ其の鉢を申へて乞索すること莫れ。

兩手に鉢を捧げ、手を低して鉢を捧げ、鉢單を離れて手の盋盂を平正にして受けよ。

量に應じて受け、餘有ら教むること勿れ。

或いは多、或いは少、手を以て之れを遮れ。

凡そ受る所の食は匙筋を淨人手中に把て、自ら抄撥して取ることを得ざれ。

匙筋を過し、浄人に與へ僧食をして器中に食を取らしむることを得ざれ。

古人云く、意を正して食を受け、鉢を平して羮飯を受く。

羮飯倶に食し、當に次を以て食すべしと。

手を以て膝を拄て食を受ることを得ざれ。

若し淨人倉卒にして餅屑及び菜汁等、迸て碗器の中に落るは、必ず須く更らに受くべし。維那未だ遍槌を白せざるに、鉢を擎て供養を作すことを得ざれ。

(まちて)、遍槌を聞かば合掌揖食して、次に五觀を作せ。

 一には功の多少を計り彼の來處を量る。

 二には己が徳行の全缺を忖て供に應ず。

 三には心を防ぎ過がを離るは貧等を宗と為す。

 四には正に良藥を事とするは形枯を療ぜんが為なり。

 五には成道の為の故に今ま此の食を受く。

然して後に出觀す。未だ作觀を出でざるに出生を得ざれ。

次に出生(すいさん)するには右手の大指と頭指とで、飯七粒を取り鉢刷柄の上に安じ、

或いは鉢單の縁に安ず。

凡そ生飯(さば)を出すこと七粒に過ぎず。

餅麺等の類は半錢の大きさ如(なる)に過ぎず。

(而今、粥時は出生せず。古時は之れを用ゆ。匙筋を以て出生することを得ざれ。)

出生し訖て合掌黙然す。

早晨喫粥の法は、粥を頭鉢に受けて鉢揲の上に安じ、

時至て、右手を以て頭鐼を把り、左掌を平げて以て之れを安ず。

指頭を少しく龜(かかめ)て鐼を拘へよ。

次に右手に匙を把り、頭鉢の粥を頭鐼に舀(く)み受く。

此の時、鐼を頭鉢の上肩に近けて、七、八匙許りを舀み取て、

頭鐼を口に就て、匙を用て喫粥す。

是の如く數番して粥を盡すを度と為す。

然る後、頭鉢の粥、稍將に盡きんとする時、頭鐼の粥を鉢單に安じて、

次に頭鉢を把て、其の粥を喫し盡し訖り、刷を使ひ罷て、

頭鉢を鉢揲に安じ、次に頭鐼を把て其の粥を喫盡し訖り、

刷を使て淨から教めて、且く洗鉢水を待つ。 

斎時喫食の法は、須く盋盂を擎げ口に近けて食すべし。

盋盂を單上に置て、口を將て鉢に就て食することを得ざれ。

佛の言く、應に憍慢して食すべからず、恭敬して食せよ。

若し憍慢の相を現ぜば、猶ほ小児及び婬女の如しと。

盋盂の外邊の半已上を淨と名け、半已下を觸と名く。

大拇指を以て盋盂の内に安じ、第二第三指を盋盂の外に傳け、第四第五指は用いず。

手を仰で盋盂を把り、手を覆せて盋盂を把るの時、皆是の如し。

(はる)かに西天竺の佛儀を尋ぬるに、如來及び如來の弟子は、

右の手に飯を摶(まる)めて食す。未だ匙筋を用いず。

佛子、須く知るべし、諸の天子及び轉輪聖王、諸の国王等も、亦手を用て飯を摶めて食す。當に知るべし、是れ尊貴の法なりと。

西天竺には病此丘のみ匙を用ひ、其の餘は皆手を用ゆ。

筋は未だ名を聞かず、未だ形を見ず。

筋は偏へに震且以来の諸国、用いることを見るのみ。

今之を用いることは土風方俗に順ず。

既に佛祖の児孫なり、應に佛儀に順ずべしと雖も、手を用て以て飯すること、

其の儀久く廃して温故に師無し。

暫く匙筋を用い、兼て鐼子を用る所以なり。

鉢を把り鉢を放(を)き、兼て匙筋を拈ずるに聲を作さ教むること勿れ。 

盋盂の飯の中央を挑て食することを得ざれ。

病無くして己れが為に羮飯を索むることを得ざれ。

飯を以て羮を覆ひ、更に得んと望むことを得ざれ。

此座(ひざ)の盋盂の中を視て、嫌心を起すことを得ざれ。

當に鉢に想を繋て食すべし。

大に飯を摶て食することを得ざれ。

飯を摶め口中に擲(なげうつ)ことを得ざれ。

遺落の飯を取て食することを得ざれ。

飯を嚼て声を作すことを得ざれ。

飯を噏(すすり)て食することを得ざれ。

舌もて食を舐(ねぶ)ることを得ざれ。

佛言く,舌を舒(の)べ唇口を舐て食することを得ざれと。

應當(まさ)に學すべし。

手を振て食することを得ざれ。

臂を以て膝を拄て食すことを得ざれ。

手をもて飯食を爬散(はさん)することを得ざれ。

佛言く,手を以て餅飯を爬散して食し、猶ほ鷄鳥の如くなることを得ざれと。

汚たる手もて食を捉ることを得ざれ。

大に攪(か)き及び飯食を歠(すす)りて聲を作すことを得ざれ。

佛言く、窣塔婆形に作て食することを得ざれと。

頭鉢を將て食を盛り溢るることを得ざれ。

羮汁を將て頭鉢の内に飯を淘(え)ることを得ざれ。

菜羮を旋らして頭鉢の内に盛り、飯に和して喫すことを得ざれ。

大に飯食を銜(ふく)み、獼猴(みこう)の如く藏(たくわ)て嚼むことを得ざれ。

凡そ飯食を喫せんに、上下太だ急に太だ緩なら教むること莫れ。

切に忌む、太だ急に食し訖て、手を拱(こまね)いて衆を視ることを。

未だ再請を喝せざるに、盋盂を刷(すり)て食を念じ、

(しん)を呑むことを得ざれ。

(たやす)く剰(あま)し飯羮を索て食することを得ざれ。

頭を抓て風屑(ふけ)をして盋盂及び鐼子の中に墮さしむることを得ざれ。

當に手を護して浄かるべし。

身を搖し膝を捉らえ、踞坐し欠伸し及び鼻を摘み聲を作すことを得ざれ。

如(も)し嚏噴(ていふん)せんと欲せば、當に鼻を掩ふべし。

如し牙(げ)を挑(と)らんと欲せば、須く當に口を掩ふべし。

菜滓菓核(さいしかかく)は鉢鐼の後への屏處に安じて、以て隣位の嫌ひを避けよ。

隣位の鉢中に餘食及び菓子有るが如きは、譲ると雖も受くること莫れ。

熱時に堂内に行者をして扇を使わしむること莫れ。

如し隣位に風を怕(おそる)るの人有らば、扇を使うことを得ざれ。

自己の風を怕るが如きは、維那に白しめ堂外に在て食を喫せよ。

或いは所須(しょしゅ)有らば、默然として指受せよ。

高声に呼びて取ることを得ざれ。

食し訖り、鉢中に物を餘さば、鉢拭を以て淨めて之を食せよ。

大に口を張り、匙に満て食を抄(すく)ひ、鉢中に遺落せしめ、

及び匙の上に狼藉たることを得ざれ。

佛言く、應に豫め其の口を張て食を待つべからずと。

食を含みて言語することを得ざれ。

佛言く、應に飯を以て菜を覆うべからず。

羮菜を將て飯を覆て、更に多得を望むことを得ざれと。

應當に學すべし。

佛言く、食時舌を弾じて食せざれ。

喉を■(口専)ならして食せざれ。

氣を吹いて食を熱して食せざれ。

氣を呵して食を冷して食せざれと。

應當に學すべし。

(粥時,粥を喫し訖らば,鉢盂及び鐼子、應に刷を使うべし。) 

凡そ一口の飯は、須く三たび抄(すくう)て食すべし。

佛言く、食時に極小摶(だん)せず、極大摶せず、圓整(えんせい)して食せよと。

匙頭をして直に口に入れしめよ。遺落することを得ざれ。

醤片飯粒(しょうへんはんりゅう)等を浄巾の上に落在することを得ざれ。

遺落の食、巾上に在り有るが如きは、當に押し聚しめて一處に安じて、

淨人に付與すべし。

飯中に未だ穀を脱せざるの粒有るが如きは、手を以て穀を去て食せよ。

之を弃ること莫れ。脱せずして喫すること莫れ。

三千威儀經に曰く、若し不可意を見れば食すべからず。

亦、左右の人をして知らしむることを得ざれ。

又、食中に唾することを得ざれと。

上座前の鉢鐼の中に、如し餘殘の飯食有るも畜收することを得ざれ。

須く淨人に與ふべし。

食し訖て斷心を作せ。

津を咽むを得ざれ。

凡そ食する所有らば、直に須く一粒を費さざるの道理を法觀應觀すべし。

(すなわ)ち是れ、法等食等の消息なり。

匙筋を用いて盋盂鉢鐼を刮(すり)て声を作すことを得ざれ。

鉢光を損すること莫れ。

若し鉢光を損すれば、鉢、垢膩(くに)を受け、洗うと雖も洗い難し。

頭鉢に湯水を受け喫せんに、口に湯水を銜(ふくみ)て響を作すことを得ざれ。

水を盋盂の中、及び餘處に吐くことを得ざれ。

淨巾を以て面頭と手とを拭ふことを得ざれ。 

洗鉢の法は、先づ衣袖を收め、盋盂に觸ること莫れ。

頭鉢に水を受け(今は熱湯を用ゆ)、鉢刷を用て,誠心に右に頭鉢を轉じて、洗て垢膩を除か教めて淨からしむ。

水を頭鐼に移して、左手に鉢を旋らし、右手に刷を用ひ、盋盂の外と兼て盋盂の内を洗う。如法に洗ひ訖て、左手に鉢を托し、右手に鉢拭を取て、鉢拭を展べ教めて、鉢を蓋て両手に鉢を把て順にして輪轉し、拭て乾か教めよ。

然して後、鉢拭を且く盋盂の内に安じて、外に出さ教むること勿れ。

盋盂を鉢揲の上に安じ、次に匙筋を頭鐼に洗ひ、洗い訖て鉢拭にて拭う。

此の間、鉢拭全く盋盂の外に出さ教むること莫れ。

匙筋を拭て、以て匙筋袋に盛て、横に頭鐼の後へに安ず。

次に頭鐼を第二鐼に洗ふ時、左手を以て頭鐼と鉢刷とを把り合せ、

略提(りゃくてい)して、右手を以て第二鐼を把て、頭鐼の位に安ず。

然して後、水を渡して頭鐼を洗へ。

第二、第三鐼を洗うことも之に準ぜよ。

鐼子匙筋を頭鉢の内に洗うことを得ざれ。

先づ頭鉢を洗い、次に匙筋を洗い、次に頭鐼を洗い、次に第二鐼を洗い、次に第三鐼を洗い、拭て極乾し、本の如く頭鉢の内に收め、次に鉢刷を拭ひ袋に盛る。

鉢水、未だ折せざるに、淨巾を摺(たた)むことを得ざれ。

鉢水の餘り、牀下に瀝(す)つることを得ざれ。

佛言く、殘食を以て鉢水の中に置くことを得ざれと。應當に學すべし。

折鉢水桶(せつぱつすいつう)の來るを待て、先づ合掌して應に鉢水を折鉢水桶に弃つべし。

鉢水を淨人の衫袖に灑(そそ)が教むることを得ざれ。

手を鉢水に洗ふこと得ざれ。

鉢水を不淨地に弃ることを得ざれ。 

頭鐼以下は、兩手の大指もて盋盂の内に迸安(びようあん)せよ。

次に左手に仰ぎ、鉢を把り、複帕の中心に安ず。

右手を覆て、以て身に近き單縁を把り、盋盂の上を蓋ひ、兩手にして鉢單を畳て、盋盂の口に安ず。

次に身に向ふ帕角(はくかく)を以て鉢上に覆ひ、又、牀縁に垂るる帕角を以て、身に向け重ねて之を覆ふ。

次に匙筋袋を以て、淨巾の上に安ず。

古時は鉢刷を帕上に安ず。今は鉢刷を匙筋袋に盛る。

次に鉢拭を以て匙筋袋上に蓋覆(がいふ)す。

次に左右の手を以て、左右の帕角を取り、次に盋盂上の中央に結ぶ。

結ぶ所の帕角の兩端、同く右に垂る。

一には盋盂、身に近き方を記し、一には容易に帕を解かんが為なり。

盋盂を複(つつ)み訖て、合掌黙然として坐し、下堂(あどう)の槌を聞く。

(聖僧侍者之を打つ。) 

聖僧侍者、堂外の堂頭侍者の下頭(あとう)に在て坐す。

槌を打んと欲する時、先ず座を起ち下牀問訊し、合掌して堂内に入り、聖僧前に問訊し、香臺の南邊を經て、槌の西邊に到り、槌に向て問訊し、叉手して且く住持人、及び大衆の鉢を複み訖るを待ち、進て槌一下す。

然して後、合掌す。

次に槌の袱子を蓋い訖て、又問訊す。(今案吉祥)

此の槌を聞て、維那、處世界梵を作す。

(處世界梵「處世界如虚空、如蓮華不著水、心清淨超於彼、稽首禮無上尊」)

是れ用祥僧正の古儀なり。(用祥は葉上で榮西禪師のこと)

之に依て暫く從隨す。

其の後、住持人出堂す。(之の次で放参の鐘を打つなり。) 

住持人、椅子を下り,聖僧に問訊する時、聖僧侍者、槌邊を退て身を聖僧の帳の後へに避て、住持をして見せ教むること莫れ。

次に大衆、起身して鉢を掛く。

先づ兩手に鉢を擎げ位を起ち、順に身を轉じて掛塔單に向ひ、左手に鉢を托し、右手もて鉤(こう)に掛く。

然して後、合掌し順に身を轉じ、牀縁に向て牀を下る。

徐徐として足を垂て牀を下り,著鞋問訊す。

上下肩を問訊するなり。

堂内の大坐湯(だいざとう)の如き、入堂出堂、上牀下牀、並に此の式の如し。

次に蒲団を牀下に收て出堂するなり。 

 

粥後の放參は、即ち住持人出堂すれば、放參鐘を打つこと三下す。

早參に遇ふが如きは、更に鐘を打たず。

如し齋主の為にせば、三下の後、陞堂(しんどう)す。

亦、須く放參鐘を打つべし。

又、大坐茶湯(だいざさとう)罷て、住持人聖僧前に問訊して出れば、

即ち下堂(あどう)の鐘を打つこと三下す。

監院首座入堂煎點の如きは、住持人を送り出でて、堂内に却り來り、聖僧前の上下間に問訊し罷て、盞橐(さんたく)出ずれば、方に下堂の鐘を打つこと三下し、大衆方に下牀すべし。

出堂の威儀、並に入堂の法の如し。

一息半歩、(寶慶記に在り)出定の人の歩法なり。

 

赴粥飯法 終